隣の先輩

「お前が悲しい顔をしたり、泣くのは嫌だから。勝手かもしれないけど、いつも笑ってほしいって思うから」


 その言葉を聞いて、先輩が前に私に言った言葉を思い出していた。


 もしかすると、球技大会のときの賭けで「笑え」と言ったのは私が暗い顔をしていたからなの?


 球技大会の日は宮脇先輩との約束を考えていて、その後は約束をだめにしてしまったことを考えていたから、暗い顔はしていた気がする。


 変なの。私なんかただの後輩なのに。先輩の優しさはすごく分かりやすいようで、分かりにくい。


 そう思いながらも嬉しかったのは本当で、さっきまで笑う気分にならなかったのに、少しだけ顔の表情を緩めていた。


 少し前に先輩に抱きしめられたときとは違って、先輩の存在をもっと近くで感じた気がした。


「もう大丈夫ですよ」


 私の体から先輩の手が離れる。


 私はできるだけ笑うようにした。


 咲が悪気があって、私に黙っているわけでもない気がした。


 きっと愛理や先輩が躊躇してしまう理由があるんだろう。


 だから、もう忘れようと決めた。


 無理に聞いて、相手を傷つけることもしたくなかったし、そのときの反応を考えたら、そんなことをする度胸もなかった。


 でも、先輩の存在を感じて、辛い気持ちがほんの少し楽になったような気がした。