電車に乗って家の近くの駅まで戻ってくる。


 時刻は二時を回ったところだった。


 まっすぐ家に帰るんだろうか。


 でも、帰りたくないとは言えずに彼の後姿をただ見ていた。


 そのとき浴衣を着た人が歩いてくるのを見た。先輩はその人たちを目で追っていた。


 知り合いなのかな。

「花火、見に行かない? 今日の夜」

「花火?」


 突然投げかけられた言葉を急には理解できなくて、思わず聞き返す。


 でも、言葉を伝え終わる頃にはその言葉を理解していた。


「この前、花火大会が雨だったから、確か今日が予備日だったから」

「行く」


 私はそう返事をしていた。


 別に花火が特別好きだったわけじゃない。



 ただ、先輩が誘ってくれたってことが嬉しかったからだ。


「一度家に帰って、夜に待ち合わせようか」