隣の先輩

 そんな気持ちを振り払うために、私はショーウインドウに飾られている千年近く前に書かれたと思われる書物に目を向ける。


「こういうの好きなんだ」


 隣に気配を感じ、先輩を見た。


「好きです。おもしろいから」


 いろいろ見慣れないものがあって楽しめたと思う。


 建物の外に出ると、先輩はソフトクリームを買ってくれた。


 お礼を言うと、それを受け取りゆっくりと舐める。甘味と冷たさが同時に口の中にじんわりと広がってくる。


 そんな私を見て、先輩は笑顔を浮べている。


 そのときなんとなく思ったことを聞いてみた。


「先輩って実は兄弟がほしかったんじゃないんですか?」

「どうして?」


 先輩は驚いたように私を見ていた。


「なんとなく。私にも裕樹にも優しいから」

「妹は考えたことないけど、弟はほしかったかな」

「そうなんですね」


 だからこうやって面倒見がいいのかもしれない。


 私が先輩より大人だったら、先輩はこうして私をかまってくれることはなかったのかもしれない。