隣の先輩

 人の部屋に入って、起こそうと考えていたとは思えないほど、躊躇しだした。


 でも、家の中に入ったし、この場所で立ちすくんでいるのもどうかと思ってしまった。


 だから、とりあえず、扉だけ開けて呼びかけてみようと思った。


 扉を拳一つ分ほど開けて、部屋の中を少しだけ見る。


 部屋の奥にベッドがあって、そこが盛り上がっているのに気づく。


 先輩が寝ているはず。


「先輩」


 ちょっと小さな声で呼びかける。

 しかし、身動き一つしない。


 私は少し考えて、また先輩に電話をすることにした。


 先輩の番号を探し出し、鳴らす。


 机の上にでも置いていたんだろう。携帯の震える音と、シンプルな着信音が同時に響いていた。


 でも、先輩は身動きしない。


「どうしよう」


 やっぱり外に戻って先輩を待とうかなと思ったとき、先輩の携帯が再び鳴る音が聞こえた。