隣の先輩

 でも、さっきまで締め切った部屋の中にいたからか、夏の風なのに優しく肌を撫でていくような気がする。


 窓を開ける音が聞こえたんだろう。


 先輩の優しい声が聞こえてきた。


 顔が見えないのに、変な感じ。

「賭けの話、覚えている?」


 私は敷居に背中を当て、そこから夜空を見る。


 今日は空気が澄んでいるのか、いつもより多くの星が見える気がした。


「覚えていますよ」


 その星の瞬きと、先輩の優しい声が


 なんだか切なくて


 胸の奥が苦しくなってきた。



「ま、楽しみにしてろよ」


 少しからかうようなおもしろがるような声。


「分かりました」


 できるだけ明るい調子で声を出す。今の気持ちを彼に気づかれないために、だ。


 いつもならそんな先輩の言葉にどきどきしていたんだろう。


 でも、今日だけは、宮脇先輩の笑顔を思い出すとそんな気分になれなかった。


 目に涙が浮かんできて少しだけ辺りの景色がぼやけて見える。


 今日、先輩と話をしたのがベランダでよかった。


 そうじゃなかったら、先輩に今、少しだけ泣いていることがばれてしまうから、だ。


 宮脇先輩が西原先輩を誘っていたこと、


 西原先輩が宮脇先輩と仲がよかったこととか、つきあっていたこととかに

 彼女でもないのに、好きなわけでもないのに


複雑な気持ちを抱いていたことに、バチが当たったのかもしれない。


 ごめんなさい


 私は宮脇先輩にも、西原先輩にも言えなかった言葉を


 心の中で何度も繰り返していた。