私は先輩の言葉を聞いて、あれっと思っていた。


 私と同じように先輩も携帯の番号を知らないことに気づいていなかったんだってこと。


「意外と毎日顔を合わせると、そんなことまで気が回らないよな」

「そうですね」


 単純だけど、さっきまで考えていた胸のつかえがすっと取れていくような気がした。


 自分でも驚くくらいの変化だった。


 そのとき、廊下に騒がしい声が響いていた。その声は先輩の教室からだ。


 何気なくその方向を見ると、先輩の教室の扉が開いていた。


 そこには髪の毛を肩のところで切りそろえている女の人が立っていた。


 今まで見たことのない、ちょっとつり目できつい感じの人だ。