隣の先輩

「裕樹は生意気なだけです」

「でも、お姉ちゃんって中二のときに家族旅行に行ったとき、一人だけ迷子になっていたんですよ。仕方ないから探しに行きましたけど」
 そう言ったのは裕樹。


 ちなみに裕樹は人前だと一応お姉ちゃんと言うんだよね。普段は呼び捨てなのに。


「裕樹」


 今更諌めてももう遅い。
 先輩はからかうような笑みを浮かべている。


 裕樹はそんな一部始終を先輩に語り聞かせていた。


 誰にでも恥ずかしい記憶ってあると思う。それは私の中の一記憶で、迷子になっていた私は小学四年だった弟に見つけられたのだ。


「こいつなら十分やりそうだな」



 何か意気投合をしている。そのきっかけが私の方向音痴というのが癪なんだけど。


 でも、楽しそうな裕樹の顔を見たのは久しぶりだった。