隣の先輩


 時折、自転車の人が傍らを駆け抜けていく。


 歩道と車道の境目となるように植えられた植木の向こうからは自動車のエンジン音も聞こえる。

 そんな当たり前の音も、今まで聞こえたことがなかった。


 今までは先輩と一緒のときは、何か話をしないといけないと思っていた。


 でも、昨日一緒に過ごして、そんな話ばかりできるわけでもなく、お互いに黙っている時間ももちろん多かった。


 だから、あまり戸惑ったり、焦ったりすることもなくなっていた。


 昨日、いつの間にか、先輩の口調から丁寧な言葉が消えていたこともそう思えた一つの要因かもしれない。


 先輩は私のそんな気持ちさえ、気づいていないんだろう。涼しい顔で歩いていた。