隣の先輩

 先輩のお父さんはまだ見たことがない。毎日、夜遅く帰ってきていることくらいは分かっていた。


 でも、あのお母さんに対して甘くなる気持ちは分からなくもない。彼女の笑顔を見ると、こっちまで幸せになってきそうだからだ。


「買い物。遠くに行くときは父親が運転するから、たいてい一緒に行くんだよ」


 先輩はそう言うと、紅茶を口に運ぶ。


 誰もいないときに家にあがってしまってよかったのかな。


 先輩は全然気にした素振りも見せない。


 先輩が顔をあげると、私の顔をじっと見ていた。


 お互いに何も言わずに顔を見合わせている。そんなことに心臓の音が今までになく高鳴っているのに気づいていた。


 初めて目を合わせたわけじゃない。でも、先輩の家という今までとは違う空間がそうさせていたのかもしれない。