「あの人って?」
「母さん。自分が出かけるときはよく傘を忘れるのに、人が出かけるときはやけに勘がいいんだよな」
先輩が傘を開く。その傘を持ち上げるようにして、私に問いかけてきた。
「入れよ。傘、無いんだろう?」
私はうなずくと、先輩に寄って行く。でも、ある程度距離を縮めると、それ以上は寄って行くことができなかった。
それは先輩に妨害されたわけでもない。私の気分的なものだった。
おかげで頭と体半分までしか傘に入ることができずに、肩の部分が濡れていた。
でも、気づかない振りをしようとしたときだった。
突然、雨に濡れた左肩をつかまれた。そのことに何がおこったのか分からなくて、頭が混乱していた。
「そんなことしてたら濡れるって」



