隣の先輩



 そんな私の戸惑いをよそに、先輩は席に座る。そして、頬杖をつくと、窓の外を眺めていた。


 別の席に座ろうと言うこともできずに、緊張しながら隣の席のできるだけ通路側に座った。


 私と先輩の間には、座席の端によったときにできる少しの隙間ができていた。


 先輩がこの隙間に気づかないことを願っていた。


 避けているわけじゃなくて、緊張してこの距離を詰められないだけだからだ。


 先輩の唇が、少し動いた。


 そんな動作にドキッとする。


「窓際がよかった?」

「そんなことないですよ。人が多くないといいですね」

「待ち時間とか長いだろうね」

「そうですね」

 そんな会話をしている間に、今まで停まっていた電車が動き出す。


 先輩が時計に目を向ける。私も何気なく彼の時計を見ていた。時刻はもうすぐ九時になろうとしていた。