上からダウンコートを着ちゃえば、下に何着てるかなんて見えないんだってことに、家を出てから気づいた。 奈良坂君のお父さんの話を口止めされるだけなら、数分の立ち話で済む。 たったそれだけのためにあれこれ悩んでいた自分が恥ずかしい。 やがて、電車が着いたようで駅から続々と人が出てきた。 あ、いた! 見間違いようのない金髪を見つけて、意味なくダウンコートの襟元をひっぱった。 奈良坂君も私を見つけたみたいで、こっちに向かってきた。 奈良坂君の顔を久しぶりに正面から見られて、頬がゆるんだ。