「以前、お車を借りて、文化祭で使う暗幕を運んだことがあったじゃないですか?
あの時、女の子も一緒だったってお話したの覚えていらっしゃいますか?」
高部先生がそう言うと、奈良坂君のお母さんは意味ありげに頷いた。
「あーあ、はいはい、あの時言ってた女の子ね」
私は慌ててお辞儀した。
「あ、あの、はじめまして。
明日香栞です」
顔をあげて見た奈良坂君のお母さんは、あの日と同じように美しかった。
しかし、私の名を聞いて、その美しい顔に驚きが走った。
「明日香……さん?
明日香さんって、もしかして、進さんの?」
私は奈良坂君のお母さんの目を見られず、うつむきがちに頷いた。
「はい。
進は私の父です」


