マンション前のロータリーで車を止めてもらった。 私は車を降りて運転席の窓の横に移動し、体をかがめて高部先生にお礼を言った。 「ありがとうございました」 奈良坂君は相変わらず、無表情に向こうの窓の外を見ている。 こっち、見てくれないかな…… でも、私の願いは届かず、代わりに高部先生が返事をくれた。 「お疲れ。じゃ……」 高部先生が片手を挙げた、そのときだった。 「あら?栞?」