私がトイレから戻ると、奈良坂君はむっつりと黙り込んでそっぽを向いていた。 さっき車の中で、高部先生が私をからかってから、ずっと機嫌が悪い。 「遅くなってすみません」 私は高部先生の方を向いて軽く頭を下げた。 「いや。 じゃ、行こうか」 高部先生は後部座席のドアを開けてくれた。 私は不機嫌そうな奈良坂君をちらっと見て、高部先生に言った。 「あの、私、電車で帰ります」