「真寿美ぃ!九条が呼んでるー」
……ドキ。
クラスメイトの言葉に心臓が脈を打つ。
教室の扉に視線を向けると、優しく微笑んでいる九条先生が立っていた。
長身の彼の姿を見て、ときめきながらも小走りに近づいた。
すると九条先生は、あたしを呼んでくれたクラスメイトの頭をこつんと叩く。
「こら。九条じゃなくて、九条“先生”だろ?」
「えー?そんな堅い事言わないでよー」
先生と生徒。
そんな立場が気にならないフレンドリーさが人気を集めている。
話しやすくて生徒想いで、おまけに格好いい……。
きっと先生に想いを寄せているのは、あたしだけじゃない。
先生はクラスメイトを呆れたように見下ろす。
「ったく……。そんなんじゃ社会出てやってけないぞ?ほら、級長の鼎を見習え」
そう言って優しく微笑んで、先生はあたしに視線を移した。
……ドキ。
また、心臓が動いた。
「何言ってるんですか、先生。って、用って何ですか?」
照れ隠し。
ほんとはこうして話してる事だって、素直に喜びたいけど。
恥ずかしく素直になれない。
ぶっきらぼうに聞くと、先生は“あぁ”と思い出したかのように手をポンと叩いた。
「文化祭の事なんだけどさ。事後報告書、書いてくれないか?」
「あ……はい」
「で、ちょっと急ぎだからさ。大変だろうけど明後日までに、よろしく」
何言ってるの、先生……。
先生に頼まれたら、頑張って明後日なんて言わないで今日にだって出しちゃうよ。
「分かりました」
そう言うと、先生はニコッと笑った。
「頼むな。書けたらオレんとこ持ってきてくれな」

