ビル内は、外の通行人の数に比べれば、多少多い気はするものの、決して賑わっているとは言えない人の数だ。だが、ジャックが一番気になったのは、通行人の数ではなく、人の種類だった。

「…明らかに、そっちの筋の人間ばかりだな」

声量を押さえ、ジャックがエースに話しかける。それもそのはず、あたりを見回すと、恰幅の良い親父や、眼付の鋭い男がエレベーター前にはたくさん見受けられ、この雰囲気に似つかわしくないエースやジャックは注目を集めているからだ。

「そうだね、この温泉街はそっちの筋の人間の穴場スポットでもあるから。そしてこのビルは、暗黙の了解で、その方々専門のビルでもある…」

エースはさらっと凄い事を言ってのけた。暗黙の了解で入っちゃいけない所に何の躊躇いもなく足を踏み入れるエースに、ジャックは頭を悩ませていた。

「そう言う事は入る前に言ってくれよ。こっちだって心の準備があるだろうが…」

「意外に小心者だなジャック。別に入ったからと言って、命を取られる訳でもないんだ…堂々としていれば良いんだよ」

エースは階段を上り、二階に行くと、一番奥にある一軒のスナックの中に入って行く。その後をジャックは着いて行き、ジャックもそのスナックに入る…すると。

「っうわ?何だ??」

金色の短髪で口ひげを生やした、年上の男性が二人の前に飛び出してきたのだ。

「久し振りだねカズミさん。元気だった?」

エースはそんなカズミと呼ばれる人物に、笑顔で挨拶すると、普段の生活ではあまりお目にかかれない、成人のハイタッチをカズミとしていた。

「もち元気よ。エースがもっと私に会いに来てくれれば、もっと元気になるかも」

「その元気は老後に取っといた方が良いよ?」

「あら?つれない事言うのね。でもそんなエースも嫌いじゃないわ」

ジャックは平然とカズミと話しているエースを唖然とした表情で見つめていた。ジャックは初めてお目にかかったのだろう…オカマという存在に。