でも、敗れ去った。完膚なきまでに。

どれだけ考えても、どれだけ準備しても敵わない相手。気がつくと、取り返しのいかない事態に陥り、気がつくと…。

「俺達は、気がついたら、友を失っていた。踏みこんではいけない領域。それを見誤って、友を助ける事が出来なかった…」

「…ショウヘイ君だったか。正義感の強い子だったな」

「あぁ。良い奴だったよ…俺と関わる事がなければ、良いジャーナリストになったと思う」

小宮に合わせ、酒を飲んでいたエースだったが、気がつくと小宮よりも早いペースで酒を飲んでいた。それは、何かを忘れようとしているのか、思いだそうとしているのか…。

ただエースは、目の前の酒に溺れる様な素振りは見せず、ただ目の前の酒を楽しんでいる様にも見えた。

「あの時も、俺の中でノイズが走っていた。そして今も、そのノイズは走っている…嫌なジンクスだよ全く…」

「そうか……これは、俺がお前に持ちかけた仕事だ。エースから貰った情報も、仕事の内容を果たしたと考えられるほどの量を貰った…報酬は成功報酬を含め、全て用意した」

小宮は、小切手を用していた様で、テーブルを滑らせる様に、エースに小切手を渡した。

だが、エースはその小切手を受けとる事はせず、目の前の酒に視線を送るだけだ。

「俺にとって、この仕事はすでに引き受けてしまったし、前金も貰ってしまった。中途半端で終わらす事など出来ないさ…」

エースは、それだけ言うと、目の前の小切手を小宮に戻した。そして、何杯目になるか分からない新しい酒を頼むと、深いため息を吐く。

「俺が小宮さんに頼みたい事は一つ。俺の仲間で一人、ミストに関係していそうな麻薬組織に潜入してもらっているんだが、もしその組織が警察に捕まる様な事が起きれば、助けてあげてほしいんだ。まぁ出来れば、俺の合図まで、野放しにしてもらいたいんだけどね…どうかな?」