エースは、小宮に向かって、公安と言う言葉を使った。

公安部とは、スパイ行為や組織犯罪など、特殊な犯罪を対象とする、情報機関に近い警察組織だ。その内情は、ほとんど謎で、顔や素性などは、仕事の内容がら、情報開示される事はまずない。

警察組織の中でも、もっとも特殊な組織と言える。

「悔しいものだよ。どれだけ捜査の幅が聞いても、権力を前にしたら、何の意味も成さないのだから。俺には、エースの仕事を手伝う事も叶わないのだからな…」

小宮は、持っているグラスの氷を眺めながら、そう呟いた。エースはその様子を見て、何を思ったのか、クスクスと上品に笑いだす。

「何を言い出すと思ったら…小宮さんも年を取りましたね。昔のあなたは獲物をロックしたら、最後まで食らいつくような人だったのに」

「それは今でも変わらん。だが、世の中はそんなに甘くないのが現実なんだ…素性は隠されている公安であっても、解る人間には解ってしまう。私に出来るのは、金に物を言わせて、警察の外で捜査するしかないのさ」

エースは、小宮という人間の弱い部分をほとんど見た事はなかった。それは仕事の内容上、冷静な判断や、情報の推理など、人間味を見せてはいけない仕事がほとんどだからだ。

それに、公安という仕事上、一般人の前にはほとんど姿を現す事もなく、人の知らないところで、危険な内容の仕事をする小宮は、人間らしい感情を表に出す事を、自分に戒めている部分がある。

「それは、俺も良く知ってますよ。実際、一回は挫折した仕事ですからね…危険を感じて『俺達』は逃げてしまった。それは、天狗になっていた俺達を戒めるには、十分過ぎるほどの衝撃だった」

物事を洞察する推理力。思慮深く行動する、観察力。

どの能力をとってもエースは、飛びぬけて居た。それは、彼の近くに居た人間は誰しもが認めている事実だった。