「この男は、お前のナイフに一切怯えていない。それに、ナイフを持った人間との戦い方を熟知している…最小限の怪我で、倒す方法をな」

ハヤトの構えを見抜いたこのシンと呼ばれている男…。

暴力を冷静に観察する洞察力と、その結果、どういった状態になるかを理解する速さ。ある程度のカリスマ性は、持っている男なのだとハヤトは理解した。

確かにハヤトは、ナイフを持った人間との戦いを熟知していた。ハヤトの構えは、手の甲を向ける事で、動脈のカットを防ぎ、大量の出血を防ぐ構えだ。

ナイフを持った人間と戦う時に注意する点は、リーチの長さと、ナイフの殺傷力だ。眼の前の男に、直角に腕を構える事で的を作り、注意を向ける。ある意味、この左腕は盾の役割をする。

サバイバルナイフの様なナイフの、攻撃方法は大まかに、振り抜くか、刺すかの二通りなので、そのどちらかに集中して対応すれば良いだけなのだ。

ハヤトにとって、そんな難しい作業ではない。

突きの場合は、左腕をずらし回避したあと、腕を折る。振り抜く場合は、薄皮一枚程度を覚悟して腕を切らせ、初撃の後の隙を見て、攻撃に転ずる。

ナイフを投げてきたくる可能性もなくはないが、ナイフの大きさを考えると、それはない。何故なら、投げるには大き過ぎるし、自分の武器を犠牲にしてまでの利点がないからだ…。

「それに、面白そうな人材だしな。お前を失うのも、この男が怪我をするのも、俺としては面白くない展開だ…だから引け」

男に話した後シンは、ハヤトの方に向き直り、話しかける。

「ところで、お前はどんな噂を聞いて、ここに来たんだ?俺達の事を少しでも知っている人間なら、絶対にこのライブハウスには近づいてくる事はないんだがな…」