そして、心理戦が得意なエースには、敵の戦略を読む力があった。

「敵さんは、未成年を操る上で、色々な秘策を使っているはずだ。それは、ジャックが調べた情報の中にヒントが隠されている。だから、ジャックは良い仕事をしたって言ったんだよ…」

「ほぉ…その情報って何だ?」

歯茎が浮くような褒め言葉に、少し照れながらもジャックがエースに聞いた。

「それは、『ミストの情報を話せば、命の保証はしない』ってフレーズにヒントが隠されていると思うんだ。だっておかしくないか?姿を現さない人間が、報復なんて出来るわけがない…」

確かに仕事や金は、本人同士が直接会わなくても、やり取りを交わすのは可能だ。でも、報復をするって事は、直接本人に会って、何かしらのアクションを取らないと物理的に無理が生じる。

「それに、顧客を集めるにしても、客の情報や連絡先をミストの幹部が知らないといけない。その点も考えると、ミストの何人かは、この麻薬の売人達の中に潜伏していないといけなくなるんだ」

「なるほどな…一応筋は通っている気はする」

「だろ?それらの事を総合すると、ミストの組織構成は未成年で固められている可能性は非常に高い。けど、俺的に理解できない事はまだたくさんあるんだよなぁ…」

エースはそう言うと、何やら思案にふけている。

「ミストの本当の目的がわからん。金は間違いなく持っている…なのに何で、こんな回りくどい方法をしているのかが理解出来ない。ミストのトップに居る人間は、間違いなく頭が切れる男だ。もっと別の目的があるのか?」

「それを知るためには、もっとミストの情報が必要だろう。まだまだ情報が足りない…必ず俺が、調べ出してみせるよ」

ジャックは、そう言うと、自分のパソコンをいじり、いろんなサイトにアクセスを始めた。

エースはそんなジャックを横目で見ながらも、考え込んだ表情を崩さず、珍しく真面目な表情をしている。

そして、ボソッと独り言をつぶやいた。

「……『ノイズ』が…走っている。この仕事…本当にヤバいかもな」

その声は、真剣にパソコンに向き合っているジャックには聞こえず、ジャックはエースに『ノイズ』の事を聞く事はなかった。