俺が内藤の案内で足を踏み入れた場所。

それは実験施設だった。薄々気づいていたが、その実験内容はジンが比喩した事柄に似た行為だった。

法律が定めたカリキュラムを逸脱した実験。

人権とは人が生きる上で必要な権利の事を言い、様々な事柄に対して有利に働くように出来ている。それと同時に権利を逸脱した行為や、国々が定めた平和を維持するための治安を乱す者にはそれ相応の処罰が下される事になる。

だがそれは人の目に触れる事が絶対条件であり、その過程がない場合は、処罰を下される事など物理的に不可能である。

そしてそれを象徴しているのが、この場所であった。

「睡蓮会とは種類を問わず、様々な部署からなる呼称に過ぎない。国連やNPOみたいなものなのさ。始まりは戦後の乱れた国の体制を、陰で支える為に出来た秘密結社だった。国にとって不必要な物を排除または再利用する為のな」

内藤は俺とリュウを自分の自室に案内した。内藤の自室はこの限られた空間の中では、かなりのスペースを確保していた。

人一人が住むには何の不都合もないぐらいの部屋だ。やはりこの内藤という男は、この睡蓮会での権力者なのだろう。

「政治家が国の未来を定め、警察が目の前の治安を守り、極道が裏社会の秩序を保つ。不思議な事に世の中の正義と悪は、非常に密接した関係にある。この三つの組織はこの国には必要不可欠な存在だ。一般の人間がどう考えているかは知らんがな。それが事実…」

「そんな相容れない関係の組織を一枚岩にまとめる為に出来た組織が睡蓮会ってことか」

「その通り。政治家は組織に有利に働く様に法律を作り、警察が権力を使い睡蓮会の横行を隠し、極道が資金を作り組織を維持する。そのサイクルを利用し、人目に出せない事柄を処理してきたって事さ」

ジンが言った必要悪とはこの事なのだろう。綺麗事だけで国が成り立つなら、内乱や国同士のイザコザなど初めから起きない。

どうにも処理に困る事柄が確実に出てくる。それを片付けるにはそれ相応の力を持った組織や権力が必要になる。

だから睡蓮会が出来たのだ。