会話を明るい方向にもってこうとしているヒサジ。そんな雰囲気を感じてか、サヨもヒサジに笑顔を向け、明るい調子で話す。

「ヒサは予習も復習もしないからでしょ。それだけでも成績は絶対にアップするよ」

「それが出来ないから困ってるんだよ。サヨみたいに俺は頭が良くないしな」

生きていれば不都合な事など腐るほど起きる。

それでも生きていかないといけない。

生きる理由はいくらでもある。2人はサヨが病院に居たころに約束を交わしているから。

共に強くなろうと。

「サヨは頭良くないよ。マリちゃんみたいに何でも出来る訳でもないし…」

「確かにマリコちゃんは凄いよな。勉強が出来て料理も…」

サヨにとっての禁句を漏らしてしまうヒサジ。急いで口はつぐんだものの、ここまで言ってから口を閉ざすのは逆効果であった。

「うん。マリちゃんは料理も出来てスタイルも良くて可愛くて……サヨにないものをいっぱい持ってるよね」

「いやぁ…」

自虐的な発言をするサヨだが、ヒサジからすればそれはサヨの被害妄想に過ぎないと思っている。

スタイルと一言で片づけても、サヨとマリコではタイプが違うからだ。長身で細身のサヨはモデルタイプで、身長が低く非凡な体つきをしているマリコはグラビアタイプだ。

そうなると当然マリコにはないものをサヨはたくさん持っている。

「サヨにはサヨの得意なものがあるだろ。手先が器用で裁縫や小物を作らせたら、多分マリコちゃんよりも出来るだろ?料理だって練習すればいつかは必ず出来るようになる…だってお菓子作りはサヨの得意分野だろ?」

サヨは料理が出来ないのではない。包丁が触れないだけなのだ。

料理の盛り付けや包丁を使わないスイーツなどは、見た目も綺麗なそれこそ見本のようなものを作ることが出来る。