ヒサジは家を持たない男だった。だからと言って、ホームレスの巣に身を寄せる事もなかった…。

そんな彼はいつも一人で居る様に見えたのだが、たまに女と一緒に居る時を見たことがある。

おそらくはその女が、ヒサジの家なのだろう。

男には見境なくケンカを仕掛ける事があるヒサジだが、女には手を出すことはしなかった。

対して親しい感じはしないのだが、時折何かに縋るように女と行動を共にしていた。

そこに弱さがあると俺は感じた。付け入る隙があるのだとも感じた。

でもそれも何かが違うと感じたのはなぜだろうな。ヒサジにとって、女は弱点であるはずなのに、そこに触れる事は破壊を齎す様な雰囲気を感じた。

何か釈然としない異質なもの。それは俺が持っている物とは逆の物。

ヒサジは何かを持っているから強い。でも俺やゲンは、何も持っていないから強いのだと感じた。

実に興味深い出来事だ。

俺はヒサジに接触してみる事にした。でもそれは、結局は実行出来なかった。

俺より先に行動を開始した男たちが居たのだ。

それがハヤトとタケシだった。この二人も少し異質な空気を持った二人だった。

タケシは現代の不良の典型の様な男だ。でもあの男は不良という存在で居る事に一番の楽しみを感じている男。

仲間を集い、楽しい時間を過ごしたい欲が人一倍強い。それ故に、人を引き付ける不思議な魅力を持った奴だった。

単純だからこそ裏を感じない。それ故に人は気軽に彼の元に身を寄せる。

恐怖とはまた違った魅力の種類。奴もまた何かしらの才能を持ち合わせた男なのだろう。

そしてもう一人の男。この男は初めて見るようだった。

一言でいえば冷めた男。そしてクールな表情と邪悪な情念を抱いた雰囲気を発している。