神への挑戦

「実に面白い推測だ。だがミストのトップを名乗る男が死んだこの状況で、それが果して出来ると思うか?暗殺って言っても、大幹部が誰だか解らない…状況で……」

笹井は自分で話しているうちにある事に気づいたようだった。ミストがなぜ、身の危険を冒してまで睡蓮会本部に直接侵攻する必要があったのかを…。

「笹井さんの察しの通りだ。おそらくミストが睡蓮会に侵入した目的は二つ。一つはさっき話した通り、大幹部の暗殺。そしてもう一つは他の大幹部の個人情報の入手だ…大幹部の情報を知りたいなら直接聞けば良い。ミストの連中は睡蓮会本部に椎名会長が居る情報をあらかじめ掴んでいた。だから手薄な時期を見計らって進行を開始したんだ。内通者を通じてな…」

この時初めて事の重大性を理解した笹井。個人情報が割れているのなら、暗殺は容易に容易い…。

なぜならミストの連中は手段を選ばない事を昨日の事件で証明しているからだ。

二人が密談を交わし、自分達の状況を整理している時。

さらなる事件はすでに動き出していた。






暗殺の条件。

それはターゲットの個人情報を入手し、目的を遂行する確固たる意志を持つ事。それに足がつかない暗殺者が望ましい…。

それらの条件を持っている男はこの時代には意外と少ない。日本という世界随一の法治国家の中で、暗殺が遂行される事は稀な事であり、そのターゲットが大物であればあるほど
暗殺の条件は難しいものになる。

だがそれらの条件を全てクリアなものにしたとしても、暗殺をするほどの動機もまた稀な事だった。

「まずは一人…」

人としての理性。それに罪悪感。それらを全て凌駕した人間とは一体どんな心理をしているのか…。

拭え切れないほどの罪悪感を自ら背負う事を覚悟した悪鬼が、全てを犠牲にして新の覚醒を果たす。血に汚れた自らの手を静かに見つめ、自分の覚悟を見せる。

「人は真の恐怖に気づいた時、己の業の深さを知る…」

男は足跡をしっかりと残す。己の存在を気付かせるために…。

神を殺す為には神になるしかない。神に死は訪れないのだと言う様に。

奏でるは凶悪なる鎮魂歌…静かなる終わりを告げる為に。