神への挑戦

ヒサジにしては珍しく、少しせわしない雰囲気で俺に話しかけてきた。でも頷く事しか出来ない俺は、適度に表情を作りながら頷いて見せた。

というか体はだいぶ動く様になってきた。多分今なら声を出す事も出来るかもしれない。

「ヒサジ…ちょっと」

ヒサジは俺の声が届いたのか、俺の口元に耳を近づいてくる。そして俺は一つヒサジに頼み事をした…。

「ハヤトお前っ…」

引き受けてもらわないと困るんだよな。でもこのヒサジの反応は、俺にも予想が出来ていた。感の鋭いヒサジならなおさらだろうと…。

「どうしたのヒサジ君?ハヤトに何言われたの?」

後ろで様子を見ていたマリコは、驚いた様子を見せるヒサジに聞いていた。

「マリコ。ちょっとこっち来てくれ…」

邪魔くさい酸素注入器を自分で外した俺は、幾分か話しやすくなり、マリコを呼んだ。

「どうしたの?」

「マリコ……明日から学校だろ?地元に帰るんだ。俺ならもう大丈夫だからよっ」

出来るだけ明るい表情でマリコに話しかけるハヤト。普段のハヤトを知っている者なら、不自然極まりないと思うに違いない表情だ。

「嫌よ…帰らない」

ハヤトの不自然さに気付かないマリコではない。明らかに自分を遠ざけようとしている事に気づくのは、造作もない事だった。

「優等生は優等生らしく、模範的に生活しろよ。進路に関係する事だろうが…」

「今は進路何て関係ないでしょっ。何でそう言う事言うのよ…そんなに私が近くに居るのが嫌なの?」

泣くなよ…。どっかの誰かが、女の涙は凶器だって言ってたぞ。

決意が鈍ってしまうじゃねぇか。でもダメなんだよ…。

「そうじゃないけどよ…別にマリコが居ようが居まいが、俺の怪我の状態は変わらない。だったらここに居る必要はないだろ?」