「やめて下さい笹井のおじきっ!俺は言われた通りに行動しただけです」

惨劇の後の一室で一つの事件が起きようとしていた。それはランが取り押さえられ、ジャックが生命の危機に陥ったあのマンションでの一室での出来事だ。

二人の狂人による襲撃で壊滅的被害を受けたこのフロアの住人は、親である国水会の男達を前に、ひどく怯えた様子を見せていた。

瀕死の重傷を銀次達に受けたこの男達は、さらなる恐怖を前にして、ヤクザの体裁など消え去った不甲斐無い様子を見せている。

「言われた通りにしてこのザマか。おれは随分と不甲斐無い子を持ったもんだな」

このザマとは見ての通りの事だった。暴力のプロである男達が、たったの二人に壊滅的な被害を負わされた現実…。

「自分の身の可愛さに、素直に睡蓮会の情報を相手に渡した上に、相手の情報も解らずトドメを刺されてここで寝てたってのか…なるほどな」

リビングで寝ていた男達は、眼力が尋常じゃない男を前に、正座した状態で座っている。

「でも仕方がなかったんです。言わなかったら殺されていたかもしれないんです…あの凶器にも似たあの男の眼は、それを物語っていたんですよ」

銀次に拷問された男は、自分が今どんなセリフを言っているかをまるで理解していなかった。自分の発言がどれだけの重みを持っているかを…。

目の前で力説している男が笹井と言った男は、正座をしている男の前をゆっくりと歩きながら話を聞いていると、急に立ち止まり部下に指示を出す。そして、ゆっくりとその場を立たせると、自分はソファーに腰掛け、男は笹井の目の前の床に抑えつけさせる。

「なぁ矢木よぉ…俺達は暴力の世界でおまんま食わせてもらっている立場だ。どんな状況に陥ろうが、堅気の暴力に屈したらおしまいなんだよ…お前にはまだ、睡蓮会の看板は重すぎたようだな」

笹井はそう言うと、懐からある物を取り出す。

「勘弁して下さいおじきっ!もう一度チャンスを下さい!」

目の前に見える物は綺麗な光沢を放った小刀だった。笹井はその小刀の鞘を抜くと、ソファーから立ち上がり、矢木に冷徹な視線を送る。