エースはその言葉と意味深な笑顔を残し、応接間を後にした…。

シンはそんなエースの姿を確認した後、ポツリとつぶやく。

「…イレギュラーな存在か。確かに厄介な人だ」

と…。

エースは応接間を出ると、そのままダッシュで階段を降り、地下5階のフロアまでノンストップで駆け下りていた。

(ミストの連中は椎名製薬の社員に危害を加えていなかったか。それにジンの目的もこれではっきりした…)

エースの中で、椎名製薬工業をミストが攻撃した目的が私怨による企業テロではない事がこれではっきりしていた。

(あくまで椎名製薬工業と言う入口に検問をはり、なおかつ一般市民の注目を集める事で警察関係者や睡蓮会の構成員の行動を束縛した…そしてこの機を利用し、睡蓮会本部への侵攻を決行した)

ミストが未成年という年齢にこだわった本当の理由がここにあった。あくまでこの籠城作戦は時間稼ぎでしかないので、成人の人間よりも、未成年という立場が弱い人間の方が、籠城に関して言えば、都合が良いのだ…。

大人が守るべき子供達に、無茶な行動は警察と言えど取りずらい。いずれは強行作戦が実行される事になっても、時間稼ぎの面だけで言えば2、3日の猶予が約束されている様なものだ…。

「その間、この場所は戦場になる。一刻も早くハヤトを連れ戻す必要があるな…」

嫌な予感はこの事件に関わった時からしていた。ノイズが走る感覚…それはエースが昔、親友の一人を犠牲にしてしまった時と同じ予感。

(あの時の俺達と、ハヤトは同じ年齢だ…悪夢再来はさせないよ)

過去を乗り越えて見せる。それはエースが抱えていたトラウマを克服するチャンスでもある…。

エースが地下の五階のフロアに到着すると、フロアのいたる所から人の叫び声の様な喧騒が聞こえてきた。どうやら戦争が本格的に始まったようだった。

「待たせたか?」

「いいや。俺もさっき来たところだ…ハヤトはやっぱり向かっちまってたか?」

フロアの影に隠れる様に居た男が、エースに話しかける。その男はもちろん金髪の男…。

「あぁ…そろそろ行こうか銀次。俺達の過去を断ち切る為に」

銀次とエースは昔の因縁を断ち切る為に、ハヤトの救出に向かうのだった。