世の中に奇跡の薬などない。薬を開発する研究員の寝る間を惜しんで研究した成果ですら、牛歩並に薬の性能を高める事しか出来ないのに、脳内麻薬という神秘の領域の特効薬など何の障害もなくクリアする事など出来るはずがない…。

それ相応のリスクが伴う事など簡単に想像がついたのだ。

「まぁ因果応報だな…これ以上は聞かないでおくよ。それともう一つ聞きたい事がある…人質はどうしているんだ?もしかして殺したりしてないよな?」

これ以上は踏み込んでも仕方がない。エースは、本来の自分の目的の為の質問に切り替えた。

「もちろん殺してませんよ。食べ物も与えてますし、危害も加えていません。この会社の社員の中には、睡蓮会と無関係の者もたくさんいますしね…」

この質問にはすんなりとシンは答えてくれた。シンの表情を見る限りは、嘘をついている様には見えない。

「そうか…なら安心だ。それじゃ引き続き立て篭もり頑張ってくれよ。俺はお前等の立て篭もりに期待しているからよ」

エースはそう言うとソファーから立ち上がり、入ってきた入口の方に向かって歩き出した。

「どう言う事です?あなたは一体何しにここに来たのですか?俺達を説得しに来たのではないのですか?」

シンからしてみれば当然の意見だ。わざわざ裏道を通ってここまで来たのに、質問をそこそこにこの場を後にしようとしているエースが不思議でしょうがないようだ。

「別にそんな事しに来た訳じゃない。それは警察の仕事であって、俺の仕事じゃないしな。それに俺としては、このままお前等が立て篭もりを続けてもらった方が都合が良いんだよ」

エースは出口に向かうながらそう話し、ドアを開ける。そしてこの部屋を出て行く前に一言シンに言葉を残して行った。

「お前等が人的被害を与えていないのであれば、俺がお前等を咎める理由は無い。それにこの会社の人間には少しお灸をすえるぐらいがちょうど良いだろう」