神への挑戦

サヨは、視線をリング上のヒサジから、ハヤトに移すと俯き加減にそう答える。

「多分、一人では絶対に見れないと思ったの…もしヒサになにかあったら、試合止めちゃいそうで」

サヨはいまいちボクシングというか、格闘技全般が好きになれないようだった。お金やプライドの為に、自分の命を危険にさらす行為が納得出来ないのだろう。

「そうか…なら今回は俺達が居るから、心配ないな。怖くなったら、マリコに手でも握ってもらえばいいさ」

「そうだよサヨちゃんっ。私の手で良かったら、いつでもどうぞ」

ハヤトの優しさや、マリコの笑顔を目の前にし、サヨは試合会場に来た初めて柔らかい笑顔を二人に見せていた。

そして、ゴングの音が会場に響き渡った…。

リングの音と同時に、最初に仕掛けたのは相手選手だった。ヒサジの挨拶代わりの腕を払いのけ、一気に懐に踏み込む。

ヒサジの作戦などはお構いなしに、ダッキングとシフトウェイトで至近距離に踏み込んだ相手選手は、渾身のボディーブローをヒサジに打ち込んだ。その音は会場中に鈍い音を響かせ、音だけ聞いても、パンチの破壊力を物語っている。

隣に居たサヨは小さい悲鳴を漏らし、マリコも口元に手をやり、かなり驚いた表情をしている。

「大丈夫だ。しっかりガードしているよ…」

ハヤトは軽く含み笑いを見せると、二人に語りかけた。

ヒサジは相手選手のボディーブローをしっかりとガードしていた。腕を交差させ、しなやかで柔らかく、威力を逃がしている。

「クロスアームブロックだ。あれは強固な守りだから、しっかりと威力を殺している…まぁ、あのとっさの出来事でよく対処したよヒサジは…」

だが油断は出来ない。相手選手は、ガードされるのを読んでいたのか、すかさずがら空きになっている顔面に、鋭い左フックを打ち込んでいた。