ミサキにとって、そんな生き方は納得が出来ないのだろう…。

「人がどんな死に方をするのも個人の自由だ。俺はそう思うがな…」

ハヤトは自分の意見をミサキにぶつけた。ミサキはもちろん、そんなハヤトの意見を納得する訳もなく…。

「それは違うわっ。生きたくても生きられない人だって居るのに、自分で死を選ぶのは間違ってる!」

ハヤトの意見に真っ向からぶつかって行った。だがハヤトも思う事があるのか、ミサキとの言い合いを辞める気はないようだ。

「それは綺麗事さ。逆を言えば、死にたくても死ねない人間もたくさん居る…人の生き死にがある戦争も大義があれば、戦地に飛び込んでいく人間も居る。自殺する奴も、戦争で死ぬ奴も、結果は同じく死を迎えるだけ…」

ハヤトの淡々とした口調に、ミサキは押し黙る様に顔をしかめていた。少しの沈黙の後ハヤトは、ビールを少し喉に通すと、口を開いく。

「けど、自分で死を選んだ人間は、最後に後悔をして死んでいったんだろうな…理由は人それぞれだろうが、幸せになる事を望まない人間はいないから。それを考えると、理由がある分、戦地で死んだ人間の方が、納得して死んでいったと思う」

話しがだいぶ逸れてはいるが、多分ハヤトの言いたい事をミサキは理解したのだろう…。

「…本当は、自殺は良くないって言いたいんでしょ?ハヤト君も紛らわしい言い方するね」

ミサキは、綺麗なグラスを用意し、ウイスキーを注ぐと、目の前のカウンターの開いている席に置いた。そして、自分が飲む用にもう一つ同じ物を用意する。

「この歌のボーカルは、このウイスキーが好きだったらしいの。安物なのに、飽きずに毎日飲んでいたらしいわ……安らかな眠りを」

ミサキはそう言うと、カウンターに置いてあるグラスに自分の持っているグラスを、優しく当てた。室内に乾いた音が響き渡る…。

ハヤトも自分のグラスを持つと、隣に置いてあるグラスに優しく当て一言…。

「…安らかな眠りを」

ハヤトは、小さくそう言うと、ミサキと視線を合わせ、二人共グラスを持ち上げ、小さく乾杯をした。