「君が優しいのは知っているが、自分を犠牲にしてまで他人を救うことまでしなくていい……!
人間は、生きている。誰だってそう、生きているからこそ、己を甘やかす権利が存在するんだ。他人を切り捨て、自分は立てばいい。
汚いことかもしれないが、当たり前なんだ、これは……!誰もがやっている、誰だって自分が可愛くて、いつだって自分を一番に考える生き物だ。
そんな世界で君のような優しさは確実に破滅をする。他人は他人。いいか、他人は所詮、他人でしかないんだ……!自分自身以上に大切なものなど、存在なんかしな、い……」
言いながらにして彼が止まったのは、私が口に指を置いたから。
先ほどやられたことをすれば、彼がぴたりと口を閉じる。
「だったらあなたは、あそこにいるのが私だったらどうしますか」
「…………」
指を離しても、彼は口を閉じたまま。
気づいたのだろう、今の一言で。
私を行かせまいとする言葉自体が矛盾していることに。


