この軽快なリズムを紡ぎ出す人物の心当たりは一人しかおらず、だからこそ真っ先に頭に思い浮んだわけだが、なるべくならドアを開けたくなかった。


 この、窓一つなく四方が白い壁で出来ている部屋が、自分を守ってくれる結界であったならどんなにか良かったろうと思う。

元来人付き合いの得意な方ではないが、ドアの向こうにいる人物はそのなかでも特に苦手な部類なのだ。

 黒塗りのデスクと、小さなアームのついた椅子が、今すぐシェルターにでもなって欲しいと半ば本気で願うのだった。


 それでも現実にそんな形状になるはずもなく、再度鳴ったノックに嘆息しつつ、のろのろと返事をした。