そこへ判事の知り合いである名探偵の明智小五郎が登場し、蕗屋に罠を仕掛けて、彼の犯罪を暴くのである。

明智が蕗屋に対して仕掛けた罠は、人間心理をついた見事なものである。

しかしトリックもさることながら、骨太な文章で物語前半に語られる、殺人犯・蕗屋のたたずまいも見逃せない。

乱歩は蕗屋を先天的な悪人だと語っている。

実際、蕗屋が金貸しの未亡人を殺害したのは、老いぼれが金をため込むよりも、自分のような未来ある若者のためにその金を使ってやる方が合理的ではないかという理由だった。

恐ろしいほど自己中心的な男である。

己の理論を振りかざし、殺人を敢行する蕗屋には、ある種の清々しささえある(むろんフィクションゆえであるが)。

同じく乱歩の倒叙型ミステリ【屋根裏の散歩者】の郷田も印象的な人物だったが、彼の犯罪は衝動的に行われた。