およそミステリ好きを自称する人ならば、この事件の犯人を知らない人はいないだろう。

その犯人を「どこの国ともわからない言葉をしゃべる人物」とした作者ポーの発想が素晴らしい。

ホラー映画さながらの殺害方法にもある程度の論理性が与えられており、世界初のミステリにふさわしい趣がある。

探偵役のデュパンは読書と夜の散歩を好む風変わりな人物。

しかし物語の冒頭、事件の記述者である同居人の「私」と夜の散歩をしていたデュパンは「私」が頭に思い描いていたことをずばりと言い当ててみせる。

それによって読者はデュパンが優れた観察力と分析力の持ち主であることを知るのだが、作家の阿刀田高さんは、このプレゼンテーションを絶賛し、推理小説誕生の前ぶれとしている。

そういえばあのシャーロック・ホームズも、デビュー作の【緋色の研究】の冒頭で、ワトスン博士の経歴を推理して言い当ててみせていた。