「あ、先生?」

 柚子が顔を上げる。

「ん?」

 俺は首を傾げた。

 さっきキスしたら、恥ずかしそうにずっと下を向いて可愛らしかったけど、こうやって顔を見上げてくるところも可愛らしい。


「高三の頃は金髪だったのに、何で王子様は黒髪だったの?」


 柚子の言葉に、忌々しい記憶が戻ってくる。


「石川先生に染められた。強引に」


 そう、強引に。今だったら教育委員会ものだ。

 染めていた俺も悪いが。


 石川のやろう……、当時の怒りが沸々と蘇る。


「へぇ」


 柚子が小さく声をたてて笑った。その顔を見ていたら、石川先生のことを許せる気にさえなってくる。


 ――抱き締めてぇ。


「あ、あともうひとつ」

 手を背中に回しかけたところで、柚子が再度顔を上げた。