無意識のうちに雪村の手をとったオレは、人通りの少ない路地へと雪村を連れ込んでいた。

耳に届く制止の声さえ無視して。

ただ、オレの頭ん中には“雪村が泣いていた”という事実だけが鮮明に記憶され、訳も分からず無我夢中で引っ張っていたんだ。


「ちょっと、雨原くんってば!! 痛いから離してって!!」

「あっ……ごめん」


雪村に激しく手を振りほどかれて、オレはようやく我にかえる。


「何なのよ、一体。何か用?」


いつもとは違う低い声で、握られた手をもう片方の手で押さえながら、怪訝な顔つきでオレを見てきた雪村。

そのいつもとは違う雰囲気の彼女に、少し怯んで口籠もるオレ。


「えっ……と、そのぉー。大丈夫、かな、と思って」

「は?」


オレの言葉をまったく理解できないのか、首を傾げて下から睨んでくる。

それはもう迷惑そうな顔をして。


「何が?」


……あれ?

雪村って、こんなだったか?

何だ、この威圧感。


「えっと。泣いてた……からさ」