「本当にたいした事にならなくて良かったね」

ママは井上さんに優しい笑顔を向けた。

井上さんは飼い馴らした犬のように頷く。

「でも、事故や転倒をすると…最悪命を落とす事にもなりかねないから。
そんな事にでもなれば貴女の最愛の人は本当に悲しむわよ?
普段から気をつけてはいると思うけど、出来るだけ転倒しないように、ね?」

ママの言葉に一瞬、静まり返る。



そう、だってママは。

高校3年の時に最愛の人を事故で…しかも目の前で失ったから。

その悲しみは誰よりもわかる。

井上さんには塩野さんがいるから。

もし万が一があれば塩野さんは地の底に落ちるくらい、悲しむだろうから。