「ね、夏」
「何だよ」
「教えてくれないかな…律さんのこと」
「………っ、けど、遼が知っても得にならないしよ」
「いいの」
単なる、好奇心だった。
人の過去を探るなんて、自分がされたら嫌だろうと思って気が引けたけど、あたしは止めなかった。
止められなかった。
「…そうだったんだ」
「い、言っとくけど凛や暦や紅次郎には言うなよ!!まあ、遼に言えるのはここまでだ」
「…分かった」
夏は口に人差し指を当てて、何度もあたしに念を押した。
あたしは夏から聞いた話を頭の中で反芻する。
凛と律さんの関係。
それは、特に珍しくもなく、思ったより普通な関係だった。
『元カレと元カノ』
簡単に言えば、こう。
律さんは女の人で、凛が昔付き合っていた人。
それだけしか、夏には聞かされなかった。
「…なんだ、よく考えると、そんなに珍しいことでもなかったんだね」
あたしは目と鼻の先に広がる海に向かって、ポツリと言い放った。
「…ま、そう思ってればいいんだよ」
「なにそれ、どういう意味なの」
「何でもない!それに、これ以上話に突っ込まない約束で言ってやったんだからな!!」
「は、はーい」
あたしはしぶしぶ返事をすると、夏から視線を外す。

