「フゥ…」


人が入れる程度しかない窓に手をかけ、

暗い雰囲気を助けれたらと、

無駄に明るい笑顔をつくる。


「ただーいまっ」


伶美にこれ以上ないほど冷めた目で見られた。

「あ〜イタイイタイイタイー」

少しの間ダメージを受けた後、

青空が伶美に寄り掛かったままなのに気づく。


「青空…寝たのか。」

「らしいな。」

翼は窓に腰掛け、視線を落とす。



左足を曲げて

右足をのばして

そっとつかれた片手…

「痛むか?足。」

「足の何か切られた。歩くのはきつい。」


青空の体を右側の肩で支え続けている伶美は

きっときついのだろうが、

そんなそぶりは見せない。

「お前、何か見なかったか?」

「…何を。」

「そーだなあ。何ていうか…

ありもしない記憶?

…自分は体験したことのないことが、自分の周りで起きたみたいに細部まで刻まれた記憶……

そんなもん見なかったか?」




「別に。」


「それなら、いい。」

閉めたばかりの窓を開け、伶美の方へ顔を向ける。

「じゃあ、俺はまた様子見に行って来るから。」

「勝手に行けばいいだろ。」


「じゃあな、伶美。」


悪戯な笑顔――


バサアッ



真っ黒な大きな翼は

その笑顔にかぶさり、

次の瞬間には遠くの空の小さな黒い点になっていた。



伶美の口から出る準備が出来ていた、

「呼ぶな」とか「消えろ」という類いの言葉は

投げる前に飲み込むことになり、

代わりに眉間の皺として表に出ることとなった。