「逃げちゃった。」

あららどーしましょ、という感じの軽い口調。

「ダメですかね?

私は気に入ってたんですけど。」

青空の言葉と態度からは、

心から心配しているのがみえる。

「いいんだよ、別に。

『感情』に触れるのが久しぶりすぎて、

お前の笑う顔とか優しさとかに

戸惑いまくってるだけだから。」

彼は他の名前の候補に視線を落とす。

青空は小さく首を傾げた。

「笑う顔ぉ?

そんなに笑う人いないんですか?」

「いるにはいるけど、

嘲笑か…嘲笑で、っていうやつしかいないし。」

「うーわー」

「居たくねぇだろ、そんなとこ。

だから連れてきたんだよ。」

「それ、正解ですよ。

今でさえ、性格ひねくれてるのに、

ほったらかしてたら、もっと嫌な子になりますよ。」

青空がさらさらと流した言葉に驚き、顔をあげた。

「言うねえ。

お前って悪口とか言えない娘だと思ってた。」

「だって、もう、全面的にありえないですよ。

そう生れついたから仕方ないとか、思ってましたけど。

直せるなら直しましょう!

伶美のためにも。」

「…なあ。ひとつ聞いていい?」

「何ですか?」

「俺の名前発表は?」

「ああ、忘れてた。

翼になれるので、翼さんです。」

「……」

―もう少しひねってくれてもいいじゃん

翼は心の中で小さくつぶやいた。