河野さんは、例えれば、お父さんのような人。


時には優しく、時には厳しくしてくれて。


なのに、頭をなでられただけで、

どうしてこんなに泣きそうな気持ちになっちゃうんだろう。


歳だって、こんなに離れているというのに。



「お父さん、いい人。お父さん、いい人……」



そう呟きながら、何とも言えないこの気持ちを振り切るように、

あたしは風を切って歩く。


それでもあの、大きなごつごつした手の感触は、

あたしの頭をわしづかみにしたままだった。



家に帰ると、河野さんが作ってくれたポップを机の引き出しに大事にしまい、

何も考えないように、早々に布団に入って眠ってしまった。



――その何日か後の事だった。



河野さんが、あたしの担当から外されるという知らせが飛び込んだのは。