「あー、かんのさんごめん、ちょっとちょっと!」


振り向くと、河野さんは申し訳なさそうな顔でウインクをしながら、

左手で"ごめん"、右手で"こっち来て"のジェスチャーをしていた。


そしてあたしが小走りで戻ると、

「さっきも言ったけど、これからも絶対頑張ろうね。

何があっても、俺はかんのさんの味方ですから。
――ね。」


そう言って、河野さんはあたしの頭をわしづかみにするように力強く、

そしてちょっと不器用に撫でた。


あまりにも突然の事だったので、あたしは目を大きくして、背中をほんの少し反らしてしまう。


しかし河野さんはそれに気付いていないのか、相変わらずあたしの頭でぐしゃぐしゃと、

手を握ったり開いたりをしている。


それが何だか心地よくて、あたしは頬が温まるのを感じながら、

黙って頭を差し出すように、少し俯く。


しばらくすると、河野さんはあたしの頭から手を離し、

「じゃ」と、あたしを撫でていた方の手を軽く挙げて、人混みの中に消えていった。


あたしは河野さんの後ろ姿を見送りながら、

何とも言えない複雑な気持ちを味わっていた。