かんのれあ

下へ向かうエレベーターの中、

あたしが自分の世界に入り込んでしまいそうになるのを、山崎さんは悟ったのだろう。



山崎さんは、階を知らせるランプを見つめながら口を開く。



「そういやこないだ、向こうの部署で河野さんに会ったんだけど。

相変わらずだったよ。
机の上にかんのさんの本も置いてあって」


ちょっと鼓動が乱れた。



「で、俺が買ったんすか?って聞いたら、

『うん、発売日にね』ってデレっとしてて何かムカついたから、背中蹴っ飛ばしてきた」


「えっ、酷い!」


「……つもりになって、我慢した」


「どっちなんですか!(笑)」


「本気で蹴れるかアホ!」




そうなんだ。


気にしてくれてたんだ。


それがわかっただけで嬉しい。


今日からもっと、頑張れる。