「別にあたし、興味無いし。」


夜風は嫌に冷たくて、だから指の先から熱を失っていくことに、意味はない。


アキトは試すような瞳を向ける。



「気にならないの?」


「どうして?」


「だって瑠衣、金のためなら何だってやるんだよ?」


そんなことは聞きたくない。


あたし達はただ、あの部屋で、ぬくもりを共有しているだけなのだから。



「あの男の過去は、何をしたって消えないよ。」


過去を知ることに、何の意味があるというのか。


この街には綺麗な人間なんていないし、過去を積み重ねて今があるのだから。


だから、アキトの憎しみのこもる瞳に悲しくなる。



「ただの殺され損ないのくせに。」


吐き捨てられた台詞が、喧騒に消える。


それは痛々しいまでに、あたしの心に突き刺さった。


なのにアキトの方が辛そうな顔で視線を落とし、沈黙が重い。


いつも笑顔を張り付けているこの人は、誰のことも信用していないような顔で、一体何を抱えているのか。


これほどまでに残酷な運命を、あたしは知る由もなかったね。