瑠衣の車は黒い高級車で、乗るのは久しぶりだったのかもしれない。


革のシートとか、ふわふわするエアサスとか、そんなこの車が好きだ。


まぁきっと、あたしじゃない女も乗っていることだろうが。


秋とはいえ、お昼時の陽射しはきつく、彼の眉間にはいつもの倍のしわが刻まれていることには、相変わらず笑ってしまうのだけれど。


でも、少し嬉しくもなってしまう。



「ねぇ、どこ行くの?」


「どこ行きたい?」


「…わかんない。」


と、いうか、誘い出したのはアンタだろ、とは言わないけれど。


瑠衣は大して考えている素振りさえ見せず、煙草を咥えてしまう始末。



「俺、運転嫌いなんだっての。」


相変わらず、生きる気力さえ乏しそうな発言だ。



「じゃあ、ドライブが良い。」


「…おい、俺の話聞いてたか?」


でも、しょうがねぇなぁ、なんて言う彼は、やっぱり優しいのだろう。


だからこそ、この無意味な関係に、心のどこかで期待してしまいそうな自分がいる。


あたし達は、互いの背負っているものから目を背けているだけなのかもしれない。


それでも確実に、ふたりの距離は縮まっていると思う。


それが良いことなのかどうなのか、なんてことはわからないけど。


サングラスをしてしまった瑠衣の瞳の奥の色を読み取ることは、叶わなかった。