「百合、そろそろ時間だよ。」


振り向けば、変わりない人の姿。


この二年ですっかり見た目は落ち着いてしまった彼だけど、口元のピアスだけは健在だ。



「相変わらず時間通りだね。」


言って、書きかけの手紙はそのままいつもの箱に仕舞い、あたしは荷物を持って立ち上がった。


まぁ、宛て先なんて知らないので、したためたものばかりが無駄に溜まっていくのだけれど。


彼は勝手に我が家の冷蔵庫を漁り、牛乳パックを手にして振り向く。



「あ、俺この前、百合のお父さんに偶然会ってさ。」


「マジ?」


「ふたりは結婚すると思ってたのに、って言われちゃった。」


「何それー。」


「別れるなんて思わなかった、ってさ。」


そう言いながら、ジュンは困ったように笑っていた。


二年前、あたし達は一緒にあの街を出た後、約束通り彼のおばあちゃんの家で、3人で暮らしていた。


ジュンは塞ぎ込みがちだったあたしをずっと支えてくれてたし、うちの家族との仲を取り持ってくれたのも彼だ。


数えきれないほどの泣いた夜を繰り返したけれど、きっとジュンがいてくれたから立ち直れたのだろうとも思う。


そして春になる頃には、自然と互いが一番大切な存在になっていた。


恋人同士というよりは、家族に近かったのかもしれない。


おばあちゃんはいつも優しくそんなあたし達を見守ってくれてたし、他愛もないだけのことをひどく幸福だとも感じていた。


きっと、ずっとこうやって過ごせるのだと思っていたし、互いにそれを望んでいたのだろうとも思う。


けれど、そんな時、おばあちゃんが亡くなった。