「傷つけたのも、傷ついたのも、きっとお互い様だよ。
だからどっちかが悪いってわけじゃないし、でもあたし達は、この街で、確かに一緒に生きてたんだよ。」


知らぬ間に、会話は過去系のようになっていた。


それはそのまま、あたし達の距離を表しているかのよう。



「瑠衣がいたから大切なことを知れたんだと思うよ、あたし。」


「俺もだよ。」


「でも、だからこそもう、一緒にはいられない。」


決意して言ったはずなのに、なのに声は震えていた。


肩口に掛かる重みの分だけ、積み重ねてきた時間と、愛しさを思う。


綺麗なだけの思い出ではない。


けど、それでも、不器用なだけのあたし達が身を寄せ合いながら紡いできた時間は、決して嘘ではないのだから。


床に転がっているのは、ブラックチタンの限定ジッポ。


アキトが亡くなったあの日から、形見として、瑠衣が使い続けているものだ。



「これ、返すよ。」


右手の小指から、お揃いの指輪を外した。


それはもう、あの頃よりずっと小さな傷にまみれ、輝きを失っていたけれど。


差し出すあたしに彼は、受け取ることを迷いながら、唇を噛み締め顔を俯かせた。


別れの悲しみが部屋を舞う。



「ありがとう、瑠衣。」


言ってやりたい言葉なんて山ほどあったはずなのに、なのに気付けば口から漏れていたのは、そんなこと。


確かに何も生まないし、何も残せない関係だった。


けれど、あの日から、あたしの一番近くにいてくれたのは、いつも瑠衣だったから。



「泣くなよ、百合。」