「……え?」


「まぁ、まだアイツには言ってないんだけどさ。
ほら、やっぱ放っとけないし、退院したらあの馬鹿、勝手にいなくなりそうじゃん?」


ジローは彼女の闘病を支える中で、何か芽生えた感情があるのだろう。


いつか、この街で出会った人間に本気にはならない、と言っていた真綾の言葉を思い出すと、何だか泣けてきた。


彼女こそが、一番幸せにならなければならない人間なんだから。



「まぁ、アイツの意地っ張りなとこ許してやれるのも、俺くらいのもんでしょ。」


「はいはい、そりゃ良かったですねぇ。」


わざとらしく棒読みで言ってやったのに、ジローは笑っていた。



「俺、真綾の強さとか、憧れるってゆーかさ。」


「うん、わかる。」


「アイツが笑ってるならもうそれだけで十分だし、病気とか、傷とか、きっと全部受け入れられる気がするんだ。」


彼はこんなにも、優しい顔をする男だっただろうか。


やっぱりそれはきっと、真綾のおかげなのかもしれないね。



「だから、一緒に生きていきたいって思った。」


そんな真っ直ぐな言葉が、ただ胸に沁みる。



「幸せにしてやらなきゃ許さないよ?」


「心しておきます。」


「もしも泣かせたりしたら、地球の裏側までだって、アンタのこと殴りに行くからね。」


「そりゃあ怖いな。」


おどけたように言ったジローを見て、これならきっと大丈夫なんだと思った。