やはり、この人もまた、過去との狭間で迷っているのだろう。


けど、と瑠衣は宙を仰ぐ。



「時間が過ぎて、年取って、そしたらアイツと笑って向き合えるのかなぁ、って。
もう良いか、って思える日が来てくれたら楽なのにな、ってたまに思うんだ。」


それは、願いにも似ているのかもしれない。


未だ互いにこの街で暮らしながら、ふたりは懸命に、過去との離別を胸に宿している。


湿った夏の風が、頬を撫でた。



「許すとか、許さないとか、そうやって生きたって何にもならなかった。」


物悲しくも、彼は呟いた。



「俺もう、疲れたよ。」


「アキトも似たようなこと言ってた。」


言ってやると、瑠衣は顔を隠すように手の平で覆ってしまう。


根深い溝に阻まれて、いつしかそれは、大きな障害となっていたのだろう。


訪れた沈黙の帳の中で、ふと、彼は顔を上げる。



「なぁ、もし俺が死んだら、喪主ってやっぱアキトってこと?」


「ちょっと、やめてよね。
そんなの冗談にもならないじゃない。」


わかってるけどさ、と瑠衣は、皮肉混じりの顔で笑う。



「俺が死ねば全部が丸く収まるのかなぁ、って。」


そう言って、彼は遠い目をして視線を投げた。


こうやって虚ろな瞳をすることは前からなはずなのに、なのに今日は、やけにそれが浮き彫りになる。



「死ぬ前だったら俺、アイツに謝ってやれるかもしれねぇな。」


この会話は、一体何の暗示だったのか。


ただ、夜は静かに更けていく。